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マジメフザケ主義

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 
  • 谷口 正和

 「もっとまじめにふざけなさい」。どんなことでも結果は「それでいいのだ」。漫画家の赤塚不二夫氏が持っていた創作魂である。 

 20世紀は2元主義の時代だった。右が正しければ、左は100%正しくない。自分が正義ならば、相手は悪。本物か偽物か。すべてが2元主義の下に判断されてきた。これをまだ引きずって、世界を混乱に陥れているのが、アメリカである。

 しかし21世紀に本格的に始まった高度情報社会、サービス社会は、この2元主義が通用しない社会である。要は多元主義社会なのだ。相手も自分も正しいし、相手も自分も間違っているケースもある。理は中庸にあり。答えは中間にあり、多元なのである。

 ファッションのような情報的商品は、まさに多元価値商品そのものである。銀座に上陸して話題をさらったH&Mの商品は、流行を十分に取り入れながら、しかも大変安い。先端ファッションをリーズナブル価格で、しかも多様に、である。

 このような流れは、本物とか偽物といった2元主義では判断できないだろう。あえて判断価値軸を探せば、好きか嫌いか、気に入ったか気に入らなかったか、である。まさに情報社会の判断軸は、個人の好き嫌い、好んだか好まなかったか、にあるのだ。

 一見相反する価値軸の多元的な融合の中に、これからの時代の顧客判断軸はある。だから赤塚不二夫氏の言う「もっとマジメにふざけなさい」という相対的価値観の取り込みは正しいのである。

 いくつか相反する価値軸をあげてみよう。まじめ×ふざけ、決める×決めない、老×若、都市×田舎、男性×女性、右×左、上×下、国内×国外、デジタル×アナログ、過去×未来、そのような複眼思考の中に、新しい価値は突然発生する。両端の価値をひとつにする。暮らす×旅する、日常×非日常、便利×不便、自由×不自由、そのクロスするところからハイブリッド型のニューアイデアは生まれてくるのだ。

 事例を見てみる。

 萌え系美女のイラストラベル焼酎が発売された。秋田県羽後町の4酒店が売り出した焼酎「花嫁道中」である。町の新郎新婦が馬そりで峠を越える冬の行事「花嫁道中」にちなんだという。JAうごが同じ作者のイラストをコメ袋に使った「あきたこまち」が人気を呼んでいるのに続いたもの。萌え系イラスト美女とコメ、焼酎との奇抜な組み合わせが斬新である。

 「宅配は、ネコである」というキャッチフレーズで、ヤマト運輸がキャンペーンを展開中だ。もちろん有名な夏目漱石の「吾輩は猫である」のパロディであることは言うまでもない。宅急便に関する認知・関心は30から40代以下の世代ではそれ以上の世代に比べて低いそうで、あえて若者に受けるブログ型のキャンペーンに踏み切った。黒いしっぽをつけた集配車「ウォークスルー」のミニチュアが走り回るテレビCMをご覧になっただろう。スペシャルサイトも開設し、ブログパーツも配布している。ウォークスルーに名前をつけて飼い主になるコンテンツやパズルも用意してある。パズルを完成するとテレビ未公開のCMが見られる特典もあるそうだ(宣伝会議10 /15号)。

 小判で江戸気分のお買い物ができる街がある。埼玉県川越市の商店街約250店が地域商品券「小江戸川越小判」を発行した。今年で4回目。銅版に金メッキ、縦3.5センチ、横2.5センチで本物そっくりの風格である。1枚960円で買え、加盟店で1000円分の商品券として使える仕組みだ。

 お寺で「合コン」はどうだろうか。奈良県の「なら出会いセンター」は同県内の世界遺産級神社仏閣で合コンを開催している。薬師寺で写経、説法などで親睦を深めたり、春日大社の夫婦大国社でハートの絵馬に願いを書くなど、この3年間で700回以上開催。結婚に至ったカップルは報告があっただけでも72組もあるそうだ(女性自身10 /28号)。

 一方的な価値観からは新しいものは生まれてこない。これはふざけすぎ? というような視点から、新しいものは生まれてくるのである。マルセル・デュシャンは、便器に「泉」というネーミングをつけて20世紀モダンアートの世界に衝撃を与えた。ピカソは平面の中に違う角度の顔を描きこんで絵の見方を変えた。「マジメフザケ主義」で行こう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/06/09
 低価格でも“ハイファッション”の「H&M」日本進出、
 迎え撃つユニクロ・ZARA・GAP
http://mediasabor.jp/2008/06/zaragap.html

○white-screen.jp 2008/10/17
 「赤塚不二夫のDNAはじけるコラボレーション参上!
  赤塚りえ子&市村幸卯子」

 「彼女に会うまでは、9時から5時の仕事で生真面目に生きていかなきゃ…
 なんて思うこともあったんです。でも彼女を見ていると、それを超えた
 ものがあるんだなと。やるんだったら真剣に死ぬ気で遊ぶ、っていう
 ことを教えられました。」(市村)
 「父の言葉で、「もっと真面目にふざけなさいよ」というのがあって。
 よく怒られたんです。市村さんは赤塚家公認の分家みたいな感じですね。
 面白いことってセンスの合う人がいてどんどんエスカレートして
 いく感じ。」(赤塚)
http://white-screen.jp/2008/10/toddla_t.php


○松岡正剛の千夜千冊 2000/05/25
 『デュシャンは語る』マルセル・デュシャン&ピエール・カバンヌ
  デュシャンが重視していたのは、おそらくは、つねに「あらゆる外見から
 遠ざかっていたい」ということである。レディメイドについてさえ、
 デュシャンは外見の印象を拒否するもののみを選んでいる。デュシャンが
 嫌いなのは“網膜的な評判”にとらわれて社会が律せられていること
 なのである。絵画を捨てたのもそのせいだった。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0057.html


○西又 葵 オフィシャルBLOG Miety’s Life Diva 
 本格焼酎・五年蔵「花嫁道中」ついに発表☆  2008/10/06
 実は…秋田県羽後町の「菅原酒店」さんから販売される焼酎のラベルに
 西又のイラストを使っていただくことになりましたヽ(*´ー`*)ノ
 お酒の方も両関酒造の5年ものの焼酎を使っているため、
 かなり価値が高いお酒ということです!!!
http://aoinishimata.jugem.jp/?eid=633


○秋田にあるべこんなとこ  「花嫁道中」 2008/01/28
 写真は、1/26(土)に行われた「花嫁道中」です。
 羽後町の雪まつり、「ゆきとびあ七曲」のメインイベントでして、
 新婚カップルが、雪の中を馬そりに乗って、羽後町の西馬音内から田代まで、
 12kmのキャンドルロードを昔懐かしい花嫁道中を再現しながら行進をする
 というものであります。
http://hojinashi.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_7034.html

 

 

 


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