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既存マスメディアへの露出も計算ずく? ネットを利用した選挙キャンペーン

<記事要約>

「Yahoo!7 Answers (http://www.yahoo7.com.au/answers)」を利用して、ジョン・ハワード豪首相が国民からの質問受け付けをスタートしてから半日の間に、オーストラリア人は450以上の質問を投稿した。

今週後半に予定されている7Newsのマーク・ライリー政治部記者によるインタービューでは、投稿された中から選ばれた5つの質問にハワード首相が答えることになっている。

Yahoo!7ニュース部門責任者のデイビッド・マクグラス氏は、「ハワード首相は非常に乗り気で、選挙キャンペーンにおけるこの革新的なアプローチに最初に関わることになって満足している」と話した。

ハワード首相は、「国民の話を聞いて、彼らの質問や懸念に直接答える機会になる」と述べ、今回の1週間だけでなく、選挙戦の間に再び同サイトへ登場する可能性があることを示唆した。

(2007/8/6  7Newsより)


<解説>

「Yahoo!7 Answers」は、日本の「Yahoo!知恵袋(http://chiebukuro.yahoo.co.jp/)」のオーストラリア版のようなもの。ユーザーが投稿した質問や疑問に対して、不特定多数のユーザーが回答を寄せるQ&A形式のオンライン情報共有サービスだ。

アメリカ版「Answers」では、今年1月にヒラリー・クリントン上院議員が「アメリカの医療制度改善のためにわたしたちは何をすべきだと思いますか?」と投稿し、3万8千件以上の回答が書き込まれて注目を集めた。

今回のハワード首相の投稿は、「お知恵拝借」の類ではなく、「首相に質問するチャンスがあったら、何を聞きたいですか?」というシンプルな問いかけ。1週間後に選ばれた5つの質問は、イラク駐留問題、健康保険、労使関係法、生活費の上昇、太陽光発電の補助金に関する内容で、ビデオによる回答が公開された。
http://cosmos.bcst.yahoo.com/up/player/popup/?rn=248153&ch=3708804&src=y7news


自由党を率いるハワード首相は、今年後半に予定される連邦総選挙で5期目を狙っている。在任期間歴代第2位の実績と経験に対する評価は相変わらず高いながらも、「イッツ・タイム・シンドローム」と呼ばれる長期政権に対する飽きと、変化への期待感が有権者の間に漂っているのも事実。「年を取り過ぎているイメージ」を懸念する党外秘の報告書がリークされたりもした。

何しろ、68歳のハワード首相に対し、政権奪取を目指す労働党のケヴィン・ラッド党首は49歳。昨年暮れに就任したばかりの新党首との蜜月期間が続いていることもあって、世論調査の結果はこのところずっと野党優位の情勢なのだ。

だが、ことインターネットを利用した目新しい政治マーケティングに関する既存マスメディアの報道においては、ハワード首相の年齢が有利に働くこともある。若いラッド党首なら予想の範囲内であっても、決してテクノロジーに精通しているとは思えない「あのハワード」が、という意外性が話題を呼んで大きなニュースとなり得るからだ。今回のように、オーストラリア初の試みとなれば、さらに注目度は高い。

動画投稿サイト「YouTube」で初めてハワード首相が演説を公開(http://www.youtube.com/user/JohnHoward2007)したときには、その映像が大手メディアで繰り返し流されるという逆転現象が起こった。結果的には、本来のターゲットである若年層の関心を喚起したばかりでなく、インターネットになじみのない高齢者にも、イマドキの媒体を活用するハワード首相を印象づけることになったわけだ。

オーストラリアでは選挙の投票は義務のため、正当な理由なく投票しない場合は罰金が科せられる。郵便投票や在外投票はもちろん、病院や高齢者施設をはじめ、刑務所にまで係員が出向いて投票を受け付ける移動投票の仕組みが整っているおかげで、95%前後の高投票率が維持されている。

日本と違って、ネット上の選挙キャンペーン手法が細かく規制されることはない反面、政治に興味がなかったり、マスメディアに接することのない有権者ともコミュニケーションを取り続ける努力が不可欠となる。

双方向性を活かすのはまだまだこれからだが、選挙戦本番に向けて、ネットを利用した政治マーケティングは、ますます盛んになっていくに違いない。直接的な影響だけでなく、多様なメディアへの露出による波及効果まで計算されたクロスメディア戦略は、どのような結果をもたらすのだろうか。

 

【関連情報】

○MediaSabor  山口浩 2007/05/13
 「メディアの中立性」と「中立的なメディア」はちがう― 選挙におけるネット活用
http://mediasabor.jp/2007/05/post_95.html


○MediaSabor  「大統領選挙投票日のネット速報は有害?」2007/05/07
http://mediasabor.jp/2007/05/post_90.html


○ガ島通信 シンポ「ネット選挙の行く末」無事に終了しました 2007/07/31
http://d.hatena.ne.jp/gatonews/20070731/1185892505


○ITmedia News  2007/07/23
 「ネット選挙」なし崩し 自民も民主もWeb更新
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/23/news066.html


○ITmedia News 岡田有花  2005/09/05
 「何でダメなの? ネットを使った選挙運動」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0509/05/news013.html


○GIGAZINE  2007/04/06
 「東京都選管がYouTubeに政見放送の削除要請、その問題点とは?」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070406_tokyo_youtube/


○2007/03/24
 「Youtubeに政見放送をアップすると引っかかりそうな公職選挙法の条文を調べてみた」
http://anond.hatelabo.jp/20070324215608


○CNETブログ 神田敏晶  2007/07/25
 「YouTubeを活用した市民参加型政治は日本で可能か?」
http://rblog-media.japan.cnet.com/knn/2007/07/youtube_f813.html


○CNET  2007/07/25
 「YouTubeとCNNの提携は成功--米大統領選討論会の質問ビデオ企画」
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20353355,00.htm


○イザ! ユーチューブで「オバマ・ガール」が人気 2007/07/23
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/70368/


○壁新聞 2007/07/24
 「政見放送なんかよりもYouTube使ったら?(Web2.0選挙)」
http://aokabi.way-nifty.com/wallpaper/2007/07/youtubeweb20_ace0.html


○週刊! 木村剛 「公職選挙法:ブログを差別するな!」 2007/07/30
http://kimuratakeshi.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_3161.html


○ネットPR.JP  2007/07/25
 「YouTubeを使ってアメリカ大統領選挙の討論会が開催」
http://netpr.jp/netpr/001299.php


○【Webマーケティング:注目記事】 2007/03/04 
 「Alexaで調べた米国大統領選挙の現状-YouTubeにも大統領選挙用チャネルが出現!!」
http://www.e-research.biz/statistics/sta_13/000810.html


○メディア・パブ 「次の米大統領選挙,YouTubeも運動の場になりそう」 2006/06/10
http://zen.seesaa.net/article/19071938.html

 

 


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