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ドイツの「両親手当て:Elterngeld」は出生率増加・少子化解決の糸口になるか?

<記事概要>

2007年1月1日から、新しい連邦助成金の両親手当て「Elterngeld」が導入された。2006年12月31日以降に生まれた子供を持つ全ての親は、この手当てを受け取る資格がある。

これまでの出生率から推測すると、現在8200万人の人口は、2050年にはおよそ6900万人から7400万人に減少し、60歳以上の高齢者が新生児の2倍を占めると予想されている。

出生率が上昇しなければ、将来高齢者を支える若年労働者の減少に繋がる。独連邦州は、仕事と家庭を両立できる条件を支援する事で出生率増加を期待している。

Sueddeutsche Zeitung 13.11.2007   (南ドイツ新聞・本社がミュンヘンにある南ドイツ出版社発行の日刊紙・発行部数約30万部)

 

<解説>

ドイツでは1986年から育児手当て「Erziehungsgeld」が開始された。新生児を持つ親には、一人当たり一律月額300ユーロ(約5万円)を24ヶ月、あるいは450ユーロ(約7万5000円)を12ヶ月と手当てが支給された。またドイツ16州の内、バイエルン、バーデン・ヴュルテンベルク、ザクセン、テューリンゲンの4州の親たちは、各州法により、国家規定の育児手当支給終了後も州より一部助成金を受け取る事が出来た。

この育児手当てに変わって、今年から両親手当て「Elterngeld」が始動された。働く親は育児休暇中12ヶ月間、もう一方の親も育児休暇を2ヶ月間とる場合は更に2ヶ月加算され、あわせて最長14ヶ月間の支給を受け取る事が可能だ。

支給額は、月額1,800ユーロ(約29万円)を限度に手取り給与額の67%と定められている。そして所得の有無にかかわらず、親たちは12ヶ月間月額300ユーロ(約5万円)の手当てを受け取る事が約束されている。ひとりで子供を育てている親は、無条件で14ヶ月間この手当てが貰える。また上限4,000ユーロ(約66万円)が条件で、親は育児費用の3分の2を課税所得から控除できるようになった。
 
自身が7人の子供の母親であり、博士号を持つ家庭省のウルズラ・フォン・デア・ライエン大臣は「低い出生率の要因は、多くの女性が出産後も仕事を続けたいと願っているにもかかわらず、仕事と家庭を両立するのが非常に困難であること。」と認識している。

就業者達が出産を懸念する大きな問題は、託児所の不足や子供を預ける時間が限られていることである。そのため同大臣は、親への助成金に加え、現在保育施設が受け入れ可能な25万人を2013年までに75万人に増やす決定をした。

また近年、親達自身が立ち上げた独自の託児所が開設されるようになった。特徴はフレキシブルな営業時間で、働く親たちを応援している。学生が育児と学業を両立できるようにとデイケア施設を立ち上げる大学が増えてきたり、社員が子供の世話に従事しやすいように自社のデイケアセンターを運営し、フレックス制を導入する企業も次々と増えた。

家族のための新たな支援と次世代育成を目標に導入された両親手当てであるが、問題もある。働いていた親達にとっては有利な育児休暇と手当てである一方、所得のない専業主婦や、学生として子育てに従事している親達にとっては不利な改革となった。その理由は、2006年までの育児手当ては新生児一人当たり総額7,200ユーロ(約118万円)支給されたのに比べ、両親手当ては3,600ユーロ(約59万)と、支給額が以前の半分となったことだ。

今年上半期の新生児数は、313,079人。2006年の同期新生児数313,896人と比べ0,2%の減少が見られる。現在の出生率は女性一人当たり1,3人で、安定した人口を保つと考えられている2,1人を大きく下回っている。ただし、出産可能な15歳から44歳までの女性人口が昨年より減少している事を照らし合わせてみると、今年は多少とも出生率が上昇したといえる。

今のところ低迷ながらも安定した出生率と言われているが、両親手当ての効用は、これから数ヶ月後の統計で顕著になる。


<関連記事>
http://www.sueddeutsche.de
http://www.elterngeld.com
http://www.bmfsfj.de
http://www.dksb.de

 


【関連情報】

○MediaSabor  2007-09-18
 「少子化問題は非正規社員増加などの雇用問題改善が鍵」
http://mediasabor.jp/2007/09/post_215.html


○MediaSabor  2007-06-20
 「ミニベビーブームは、愛国心+出産給付金のおかげ?」
http://mediasabor.jp/2007/06/post_135.html


○MediaSabor  2007-06-19
 「託児所不足が招く、違法ベビーシッターの増加」
http://mediasabor.jp/2007/06/post_134.html


○MediaSabor  2007-04-20
 「人口減少でも繁栄」論のウソ ─「百年の大計」必要
http://mediasabor.jp/2007/04/post_54.html


○Itmedia オルタナティブ・ブログ 2007-08-11
 「子供たちを不幸にしていないか、と考えること」
http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2007/08/post_e2f0.html?itm0813a


○FPN  「女性の本質的活用 ・・・在宅勤務について考える」 2007/04/04  
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2206


○livedoorニュース 2007-05-16
 【独女通信】結婚は30歳までに、出産は35歳までにという独女の焦り
http://news.livedoor.com/article/detail/3164329/


○勝間和代 日々の生活から起きていることを観察しよう!! 2006/03/13
 「ワーキングマザーが家事・育児に使う時間について考える─少子化対策に
 必要な施策とは?─」
http://kazuyomugi.cocolog-nifty.com/point_of_view/2006/03/post_3511.html


○小飼弾 404 Blog Not Found 「貧乏な社会で子を産むな」 2007/11/22
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50955373.html


○GIGAZINE  2007-09-13
 ロシアで子作りのための「家族計画の日」が制定
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070913_family_day/


○雪斎の随想録  「子供にカネを掛けない国家」 2007/10/24
http://sessai.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_2b43.html


○ドイツフラッシュニュース 「2007年1月から変わること」 2006/12/31
http://ksensei2.cocolog-nifty.com/blog/2006/12/2007_fe3a.html


○赤間道夫 akamac book review  ドイツの「親手当」 2007/08/23
http://d.hatena.ne.jp/akamac/20070823/1187861680


○アルタクセルクセスの王宮  ドイツ版「産む機械」批判  2007/02/22
http://plaza.rakuten.co.jp/artaxerxes/diary/200702220000/


○人事労務屋のつぶやき 独立編 「ドイツの育児休業保障法」2006/11/04
http://blog.tashiro-sr.com/archives/50749325.html


○ワイン山の麓から 「ドイツは最下位」 2006/0516
http://nyf1403.exblog.jp/4691528/

 

 


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