大統領夫人のファッションというメディアツール --声無き声の影響力--
- 米国在住ジャーナリスト
1月20日、バラク・オバマ新大統領就任式を迎えた米国では、早くも式に登場したファースト・レディーである、ミシェル・オバマ氏のスーツやドレスについて、メディアがこぞって書き立てている。その評価に対してはいずれも好意的。中には、ファッション業界の大御所、VOGUE編集長のアナ・ウィンターの意見より、これからのアメリカン・ファッションについては、ミシェル氏の動向が重要だ、というものまである。
これほどファースト・レディーのファッションが注目されているのは、ジョン・F・ケネディー元大統領の妻であった、故ジャクリーン・ケネディ氏以来である。ハーバード出身の元弁護士で、２児の母であるミシェル氏は、初めての黒人ファースト・レディーである以上に、予想を覆すデザイナーのドレスを選ぶという点でも、今や注目の的である。というのも、そのドレスには、言葉に出さなくとも夫である、米国初の黒人大統領となったバラク氏の政治的意図を大きく酌んでいるというのだ。
例えば、ミシェル氏はこれまで、テレビ番組の出演時にJ. CrewやWhite House Black Market など、米国内誰でも購入しやすいドレスやニットを着こなしてきた。誰とも隔たりない、そんな雰囲気も醸し出せるファッション。こうしたナチュラルさは、結果国民からの好感度をアップさせている。（もちろん、両ブランドともに、翌日にはミシェル氏が着用したドレスは即日完売だった）
一方で、歴代のファースト・レディーにはないほどの、主張したドレスも披露している。例えば、昨年のシカゴのグラント公園における勝利演説時に着た、ナルシソ・ロドリゲスの真っ赤なドレスや、マリア・ピントのパープルやコーラルブルーのドレスなどだ。
ミシェル氏のドレス選びの鍵となる人物は、シカゴのブティック「イクラム（http://ikram.com/)）のオーナー、イクラム・ゴールドマンといわれている。多くのハイエンドのブティックのように、アレクサンダー・マックイーンやニナ・リッチなどの有名高級ブランドから、ナルシソ・ロドリゲスやジェイソン・ウーのような比較的新しいデザイナーの商品まで幅広く取り揃えている。
今回ミシェル氏が就任式のドレスに選んだのは、ニューヨークのベテランデザイナー、イザベル・トレド氏のもの。ニューヨークタイムズの取材に対して、トレド氏は「ドレスの依頼があった時、とにかく楽観的な色を選びたいと思い、太陽の光のような黄色を選んだ」と答えている。
大方の予想では、昨年の選挙勝利演説の際に、ミシェル氏が着用したロドリゲス氏のドレスの新作を着るのではないか、と言われていた。というのも、オバマ新大統領は、キューバとの関係改善を非常に願っており、キューバ系デザイナーであるロドリゲス氏のドレスを選ぶことは、こうした政治的意図を反映したもの、と考えられているからだ。結果的にトレド氏のものが選ばれたが、トレド氏もロドリゲス氏同様に、キューバ系アメリカ人だという点も忘れてはいけない。
その後の舞踏会では、台湾系の若干26歳の若きデザイナー、ジェイソン・ウーの白いドレスを身にまとったミシェル氏。トレド氏にしても、ウー氏にしても共通していることは一つ。非常に高い技術を持つものの、巨大アパレルに取り込まれていないインディペンデントなデザイナーであること。
今回のドレスに対して、ファッション・アイコンとして知られる女優のサラ・ジェシカ・パーカーは「彼女は完璧だった。私は彼女が米国人デザイナーをサポートしていることに、尊敬の念を抱いている。彼女こそ、これからの米国ファッション・ビジネスの鍵になるのではないか」と語った。
夫であるオバマ大統領の前向きで積極的な政治姿勢を、ファッションという一つのメディアツールを利用して、声無き声でサポートしていこうというファースト・レディーの考えが、就任式一日のドレスを通して、全世界が理解した瞬間であった。
参考資料：
http://www.nytimes.com/2009/01/21/us/politics/21fashion.html?_r=1&ref=us
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601103&sid=azdynTy76y_c&refer=us
http://www.nbcchicago.com/around_town/fashion/The-Inaugural-Wardrobe-.html
http://www.dallasnews.com/sharedcontent/dws/news/washington/stories/011608dninaugobamafashion.19fdba4.html
http://www.thecelebritycafe.com/features/23704.html
【編集部ピックアップ関連情報】
○MediaSabor 2008/12/25
「ミッシェル・オバマ夫人のファッションが米国アラフォー世代市場活性化」
http://mediasabor.jp/2008/12/post_555.html
○MediaSabor 2008/10/27
次期「ファーストレディ」候補のファッションには政治メッセージも
込められている？
http://mediasabor.jp/2008/10/post_511.html
○MICHELLE OBAMA: Bio Video（YouTube 06:14）
http://jp.youtube.com/watch?v=ovuISyZmvn0
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