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自治体、病院、学校など公共分野でも広がる米国での映像、IT活用

  • 米国在住ビジネスコンサルタント
  • 鶴亀 彰

私が愛読している業界誌の一つに、カリフォルニア州のフォルサムにあるe.Republicと言う会社が毎月発行しているGovernment Technologyと言う雑誌がある。これはIT関連の雑誌としても内容が充実しているが、主たる目的はIT関連業界と公共分野を結び付けることである。全米各地でITを上手に活用し、市民サービスの向上や経費節約を実現している地方政府などを紹介し、その実例を詳しく説明している。

アメリカでは警察や消防などは市長の管轄で、各市ごとに存在する場合が殆どである。それらの仕事を円滑に行なうためにIT活用が大いに進んでいる。市立病院や介護施設、保育園、公園管理、図書館、学校など、ありとあらゆる市民生活の場で行政が指導してのIT活用が一般的になっている。

もちろん失敗例なども取り上げられており、それらは新たにIT化を目指す都市にとって貴重な情報源となる。最近の話題では市民がいつでも、どこでも、無料ないしは極めて安価な費用で高速インターネットにワイヤレスでアクセス出来る環境作りなどがあり、それの問題点なども指摘している。民主主義の最先端を進む米国ならではの積極的な取り組みが多く見られる。またe.Republic社では活字に加え、最近ではGovernment Technology.TVとしての映像配信版も始めている。

それらに呼応する感じで、最近さらに公共サービス分野で映像を活用する動きが活発になっている。それを支援する民間のベンチャーとしてサンフランシスコにGranicus, Inc.と言う会社がある。彼等は州や郡、市などの地方政府に対し、映像を通じて、自治体と住民がより良くコミュニケートするための支援を行っている。議会での討議や公聴会の模様などがライブでビデオストリーミングされるが、その仕組み(ハードとソフトならびに利用法)を一括提供しているのである。

ライブのビデオストリーミングはさして珍しくもないが、Granicus社が提供するMedia Managerと言うソフトはそれらの映像をアーカイブ化し、保存し、いつでも市民が視聴出来るようにしている。キーワードを入れる事で、市民は常に過去の映像も観る事が出来る。

またMinutes Managerと言うソフトでは議事録などが映像化され、一般に提供される。映像の保存も各市役所の下請けとして同社が行なっている。市民は自分が住んでいる市役所のサイトにアクセスしていると思っているが、実際は同社のサーバーにアクセスしていることになる。

アメリカの政治家は自分の意見を広く知って貰うために、ビデオカメラの前で喋っている自分の映像をYouTube(ユーチューブ)に掲載し、そのURLを有権者に知らせる手法を取り始めている。現在、Granicus社では映像を見ている有権者の投票を受けるシステムなども提供し始めているが、行政や政治の分野で、映像による有権者とのコミュニケーションの比重が、これからますます大きくなって行くと思われる。

まだ政府と国民、地方行政と市民との間に遊離が見られる日本では一挙にアメリカ並みの行政サービスには進まないかも知れないが、その方向には確実に向かいつつある。ある意味ではまだビジネスモデルが確立されていない映像配信の民間ビジネス分野より、これらの公共分野での映像検索・配信サービスなどの方がより早く定着化するだろうと感じている。

 


【関連情報】

○MediaSabor   2007/10/07
 「NO STYLE広告論 米大統領選挙にも影響しそうなオバマ・ガール現象を読む」
http://mediasabor.jp/2007/10/no_style_2.html


○MediaSabor   2007/08/28
 「既存マスメディアへの露出も計算ずく? ネットを利用した選挙キャンペーン」
http://mediasabor.jp/2007/08/post_196.html


○MediaSabor    2007/05/13
 「メディアの中立性」と「中立的なメディア」はちがう―選挙におけるネット活用
http://mediasabor.jp/2007/05/post_95.html


○MediaSabor    2007/05/07
 「大統領選挙投票日のネット速報は有害?」
http://mediasabor.jp/2007/05/post_90.html


○メディア・パブ 2007/05/01
 「Twitter,YouTube,MySpace・・・,米大統領選挙の活動の場に」
http://zen.seesaa.net/article/40470990.html


○ CNET  2007/03/02
 「自治体がケータイ動画で情報発信--Qlick.TV、島根県と特別企画をコラボ」
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20344472,00.htm


○ CNET  2007/05/18
 「医療機関の診療報酬明細書を完全電子化、2010年度中に実施--厚労省指針」
http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000056022,20349131,00.htm


○ITmedia オルタナティブブログ 2007/09/06
 「地域2.0と地域活性化(4) --YouTubeやニコニコ動画じゃだめなのか?」
http://blogs.itmedia.co.jp/business20/2007/09/204_youtube_3e5d.html


○ITmedia ニュース  「自治体IT調達の課題」 2005/02/14
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0502/14/news043.html

 

 


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