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三浦展×河尻亨一対談 増殖する「シンプル族」のライフスタイルと消費性向

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」第9回目の対談企画。
■ゲスト:三浦展  インタビュアー:河尻亨一
テーマ: 増殖する「シンプル族」のライフスタイルと消費性向 (放送時間:104分)

広告や供給側の仕掛けが効きにくくなっている要因は、メディアの多様化だけでは
なく、コンシューマーの意識や志向変化も見逃せない。静かに増殖する「シンプル族」は
その象徴であり、今後のサービス創出や商品開発で無視できない存在となっている。


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 <三浦展>プロフィール
1958年生まれ。82年一橋大学社会学部卒、パルコに入社、マーケティング情報誌「アクロス」編集室勤務、その後同誌編集長として「第四山の手」「新人類」「世界商品」などのキーワードを使い、時代、世代、消費、都市、文化などを分析。
90年に三菱総合研究所入社、99年に退社し消費・都市・文化研究シンクタンク
「カルチャースタディーズ研究所」を設立。
団塊ジュニア世代、団塊世代などの世代マーケティングを中心に、自動車、家電、情報機器、食品、化粧品などの商品企画、デザインのための調査等を行う。
また、家族、消費、都市問題などを横断する独自の「郊外社会学」を展開するほか、「下流社会」「ファスト風土」「2005年体制」「真性団塊ジュニア世代」「シンプル族」などの概念を提案、マーケティング業界のみならず、社会学、家族論、都市計画論など各方面から注目されている。
主な著書は
「下流社会―新たな階層集団の出現」 (光文社新書)
「団塊世代を総括する」(牧野出版)
「ファスト風土化する日本―郊外化とその病理」 (洋泉社)
「かまやつ女の時代─女性格差社会の到来」 (牧野出版)
「シンプル族の反乱」(ベストセラーズ)など
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音源の一部は下記サイトにて確認できます。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/talk01.html#no8


対談音声本編聴取のための会員登録はオトバンクの下記サイトよりおすすみください。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.htm

音源本編から、その一部を切り取った記事を下記に掲載いたします。


(河尻)
───「シンプル族」とは、どんな人なんですか。

(三浦)
いわゆる高級ブランドや高級外車とかといったものには関心がなく、服装はシンプルで、無印良品とかユニクロで充分だね、といった人たちです。食生活については自然志向、オーガニック志向です。それから、住については、古い家が好きですね。港区の高層高級マンションとかは、金をもらっても住まないんじゃないかな。まあ、脱力といえば脱力ですけど、肩肘張って高いものを買って、高級レストランに行って、みたいな感じじゃなくて、すごくカジュアルなライフスタイルの人たちです。新しいものがいいという近代社会の価値観がありますが、その価値観には影響されにくい層といえます。

(河尻)
───シンプルライフを志向する人は昔からいたと思いますが、その社会現象としてのルーツは何でしょうか。

(三浦)
シンプルライフという言葉の出現は、19世紀のイギリスにあるようです。ウィリアム・モリス(芸術家、デザイナー、詩人。イギリスの産業革命後の機械化による大量生産と職人軽視の時代のなかで、装飾芸術の分野で手仕事の重要性を強調)とか。イギリスの高度経済成長期は19世紀でしょう。そこでは、人間社会が物質とお金だけの世界でいいのか、という疑問を持つ人も出てくるのです。アメリカだと1920から1950年代にアレン・ギンズバーグ(詩人。ヒッピームーブメントの前身であるビートゼネレーションの発起人。「吠える」「ガナッシュ」などが有名)が出てきます。物質の豊かさだけでいいのか、という考え方です。だから、そういう意味では日本の中では、1960から1970年代にかけてのヒッピー思想が根本になっていると思います。1970年代に日本がある程度、豊かになって中流社会になり、「もうこのくらいでいいんじゃない」と、かなりの数の人が思ったと思うんです。

しかし、企業というものは、「このくらいでいいから止めましょう」というわけにはいかないんです。常に増収増益を目指すわけだから、そう言わないで「これ、買ってください」と作り続けるわけです。「一家に一台、テレビが普及しました、もういいです」 「いやいや、今度は、一人一台にしてください」 ということで、電話もテレビもオーディオも一人一台の世の中になってしまったわけじゃないですか。そうすると「今度は一人三台どうですか」ということにもなりかねませんが、さすがにそこまではなかなかいきません。だから、豊かさの飽和感といいますか、物が増えたら豊かだとは実感しにくくなっていると思うんです。

(河尻)
───ひとつ思ったんですが、スティーブ・ジョブスが元々はヒッピーじゃないですか。なんとなく、先ほどの発言のアナロジーで思いついたんですが、やっぱりMacの思想が「シンプル族」と通底していますよね。

(三浦)
恐らく「シンプル族」のMac使用率は、一般の数倍くらい高いと考えられ、半数以上はMac派だと思います。個人の自由を追求する姿勢が強いんです。

(河尻)
───まさに、ここまで聞いてきた「シンプル族」の傾向に、自分自身もかなりの項目で当てはまる気がしています。ナントカ族と言い方は、若者風俗において昔からいわれてきたことじゃないですか。古くは、太陽族とか、みゆき族とか、80年代に入って、竹の子族だったり、オタクも最初の頃は「族」がついていました。そのように、一部のとんがった趣味、嗜好をもった人たちを「族」といってたと思うんですけれど、「シンプル族」は、そういったものではなくて、むしろ「シンプル系」といったほうがしっくりくるようなトレンドのように感じます。

(三浦)
それは、他の人にも言われたんです。「シンプル族」ではなくて「シンプル系」じゃないんですか?と。でも、それは、本のタイトルの語感からすると「シンプル系」では、ちょっと弱いんですよね。

(河尻)
───「シンプル系」のチェックシートがあるとすれば、20から30代の層については、かなり多くの項目があてはまることになりそうです。

(三浦)
今回は、自分の部屋のインテリアなども含めて自分なりのシンプル志向の価値観で作り上げている人たちをインタビューしたので、そういう意味では「シンプル族」なんです。「シンプル系」といってしまうと、高校生も入りますよ。

(河尻)
───捉えにくくなりますね。

(三浦)
シンプルの意味合いが幅広くなってしまいます。たとえば、プロダクトデザインにおけるシンプル志向として考えると、高校生は、今の30代よりシンプルですよ。驚くべき結果がでます。「えっ!これでいいの、なんにもないじゃん」といった感覚です。

(河尻)
───モノを買わないということだけでなく、モノを買えないという側面もありますが。

(三浦)
それは、もちろんありますが、今回、調査したのは、みんな正社員で年収500万円程度の人たちなので、普通にモノを買うことはできる層です。やはり、買いたいものが変わってきています。だって、何万円もするような陶磁器を持っていたりするんです。高級ブランドのイアリングも買えるけれど、そうしたものへの関心は低いんです。自分のセンスが、まず先にあって、それに合うものを探しているわけです。たまたま、高級ブランドに、そういうものがあれば、それはそれで買うと思います。けれど、高級ブランドだから、という理由では買いません。逆に、自分で造ってしまいたいとか、いう人も多いです。

だから、要するにデザイナーとかマーケッターとか、企業とかが意味づけたものを嫌っているんじゃないかという見方もできます。「意味はわたし自身がつけます。過剰な意味を押し付けられると気持ち悪いです」といった考え方です。高層タワーマンションなんかもそうじゃないですか。「こういう所で暮らすとオシャレだよ」とか「都会的だよ」とか「セレブにみえますよ」とかいう押し付けが面倒くさく感じるのです。

(河尻)
───そういう意味では、デザイナーズマンションなんかもヤバイかもしれませんね。

(三浦)
そういう意味づけを削ぎ落としたいということだと思うんですよね。もちろん、最後に何らかの意味は残るんですが、いわゆるこれまでの広告的な意味合いを削ぎたいという人たちが増えているんです。

(河尻)
───広告が効きにくくなっている別の一面でもありますね。


<対談の全体概要>
◎パルコ時代。マーケティング情報誌「アクロス」での仕事
◎三菱総合研究所での仕事
◎カルチャースタディーズ研究所設立の動機
◎独立後の印象に残っている仕事。手ごたえを感じたエピソード
◎「時代を象徴するようなヒット商品、流行は社会構造の変化によって
  もたらされる」という持論の意味
◎「社会構造の変化」を見極めるための仮説と検証について
◎優れたマーケティング・リサーチャーとは
◎「シンプル族」とは。「シンプル族」のルーツ
◎「シンプル族」のライフスタイル
◎「ロハス志向」と「シンプル族」の共通性
◎欧米文化崇拝から和文化志向への変化
◎「シンプル族」のコミュニケーション、情報接触の態様
◎「モノ」から「コト」へ変化する消費
◎これからの商品開発、サービス創出、流通の考え方

(2009年11月26日収録)


【編集部ピックアップ関連情報】

○本屋のほんね 「シンプル族の反乱」2009/07/23
 シンプル族の考え方は、家父長的伝統的な価値観と違うのはもちろんのこと、
 物質文明的な発展=善という価値観をもつモダン派とも大きく違っていて、
 これまでのマーケティング理論は全然通用しなくなっているという指摘が
 なされています。
http://d.hatena.ne.jp/chakichaki/20090723

○ただのオタクと思うなよ 「シンプル族の反乱」2009/08/21
 懐古にすがってばかりで、こうした時代の流れをしっかり把握しておかない
 ことには、商機は見えてきません。そんな、従来の物差しでは通じない
 新たな価値観を持った世代の秘密に迫るのが、本日紹介する一冊
 「シンプル族の反乱」です。
http://ameblo.jp/adaken66/entry-10325302366.html




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2009年10月下旬から配信を開始したビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」
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経験豊富なインタビュアーがリスナーの立場にたってゲスト講師に迫り、本人の
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入念な事前準備を重ねることで、テキスト情報では伝わりにくい情報も肌感覚で
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980円の料金で10本近い対談をフルに体験することができます。この機会に
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Visa, Master, JCB, AmericanExpress, Dinersのカードであれば、
海外発行のものでも利用可能です

音源サンプルをオトバンクの下記サイトにて聴取することができます。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/talk01.html

会員登録はオトバンクの下記サイトからおすすみください。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


<2010年1月配信の対談>

▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)
   ─河尻亨一
▼夏野剛(慶應義塾大学  政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ─本田雅一(テクニカルジャーナリスト)


<2009年12月配信の対談>

▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗
 「仕事で重要なのは情報と人脈の活かし方」
http://mediasabor.jp/2009/12/post_732.html 

▼森谷正規(技術評論家)─永江朗
 「戦略の失敗」から学ぶ日本製造業の経営 
http://mediasabor.jp/2009/12/podcast.html


<2009年10から11月公開の対談ラインナップ>

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(株式会社インフォバーン CEO)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 出版・新聞のネオビジネスは業界の外から勃興する)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_719.html

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: 常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html 

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
 (本編から抜粋のテキスト記事:「インテグレーテッド・キャンペーン」で「グルーヴ」を起こす)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_723.html

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事:創造と依存をバランスさせて「仕組み」を活かせ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_724.html

 

 

 


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